衝撃の研究生活ー独立成分分析に見た夢ー

佐藤 弘顕

私は現在,株式会社グローバルソフトウェアで医療系ソフトの開発に携っています.大学では,C言語のコードを書いていましたが,現在はコードの書き方を再度勉強し,医療制度について調べているところです.しかしながら,自分はこれらに興味を持てず,池口研究室での生活が一番面白かったことを痛感しています.そんな私が研究室でどのような研究を行っていたかを書いていきます.

私は2006年4月に,池口研究室に配属されました.音声信号などからノイズを分離する研究を行いたいという目標はありましたが,実際にどのように研究を行えば良いかについては決まっていませんでした.そんな中,池口先生から「独立成分分析」という信号分離の方法があり,それに関する書籍が研究室においてあるということを教えて頂きました.早速読んでみたところ, 私の行いたい研究と合致していたため独立成分分析の研究を進めることにしました.

独立成分分析の例としてカクテルパーティ効果を思い浮かべてもらうと良いと思います.パーティ会場で複数の話者が会話をしている状況で,私たちはある特定の人の話に集中することができます.これは,私たちが,沢山の話者の音声信号からある特定の話者の音声信号を分離できるからです.どのような状況のときに,どのようなアルゴリズムを用いると精度良く分離できるかを考えるのが独立成分分析の研究です.実際には,マイクが拾った音声信号を観測信号,話者の音声信号を信号源信号と考え,信号源信号間の独立性を用いて観測信号から信号源信号を分離します.一般に,独立成分分析は音声信号に限らず,様々な信号を分離することが可能です.

先生に紹介して頂いた独立成分分析の本は,研究の現状が書いてあるだけでなく,これまでの理論背景の説明がなされていました.理論背景を読んでみたところ,過去の研究内容について理解できない部分があり,実際にその部分に関する論文の追試を行うことにしました.私が読んだ論文のいくつかは,どのような実験条件でシミュレーションを行ったかが書いておらず,再現性が非常に低い内容となってるものもありました.しかし,このような問題に突き当たったときも,先生や先輩方と議論を行い解決をしていきました.一人で研究を行っていたら気付かなかったであろうことが非常に多く,議論は非常に重要であることを痛感しました.

これらの論文を読んだことを発端に,独立成分分析の本に引用されている様々な論文を読んでいきました.数をこなすうちに英文論文を読むスピードも上り,12月頃になると読んだ論文の内容をすぐに追試できるようになりました.しかし,この頃から少し焦りがでてきました.というのは,論文の追試しかしておらず,自分の研究としては成果が全く出ていなかったためです.一つの観測信号から全ての信号源信号を分離する方法について考えていましたが,未解決問題なだけあって良いアイデアが浮びませんでした.

今思えば,この問題に拘りすぎていたのかも知れませんが,先生や大学院生の皆さんと色々と議論しているうちに,従来提案されていた2種類のアルゴリズムを適応的に組み合せることにより,単独でアルゴリズムを使用するよりも高い精度で信号を分離できることを示すことが出来ました.最終的には,この手法について卒論をまとめることになりました.また,3月には電子情報通信学会で研究発表することも出来ました.この内容は電子情報通信学会の論文としても採録されました,卒論の内容,卒論発表会の発表内容,学会原稿,学会発表については,先生や先輩方に繰り返しチェックをして頂き,無事に発表することができました.今考えると,先生や大学院生の先輩方と議論していなければ,アルゴリズムの組み合わせを検証することすらできなかったかもしれません.そもそも指導教員が池口先生でなければ,独立成分分析を知ることは無かったと思います.

研究以外での研究室生活は社会勉強でした.飲み会などで親睦を深めたり,冬にはスキー合宿がありました.どのようなものであったかは多くは語りません.社会に出れば人付き合いが大変です.その練習として,池口研究室は最適の場であることを保証します.大学院へ進むにしても,就職するにしても得るものが必ずあります.何が得られるかは実際に体験してみてください.

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