カオスによる長期予測不可能な人生

長谷川 幹雄

私は現在,東京理科大学工学部電気工学科で,コンピュータやネットワークを教えています.私の元々の専門分野は,カオスやニューロコンピューティングなどでした.現在では,ユビキタスモバイルネットワークなどの応用研究を中心に活動していますが,私の研究の基礎部分や研究に対する取り組み方は,すべて池口先生からご指導頂いたものです.池口先生が東京理科大学 基礎工学部 電子応用工学科の助手だった時に,学部4年生から博士課程を修了するまで,6年間もご指導して頂きました.

大学に入学してから学部3年生までは,あまりまじめに勉強したことはほとんどなく,興味を持てた授業は,殆どありませんでした.学校にもあまり行っていませんでしたし,成績はひどいものでした.学部時代の3年間は,遊び,アルバイト,サークルが中心の生活で,毎日自由気ままに過ごしていました.

「このままではまずい!」と思ったのが,学部4年生になって研究室に配属されるときでした.学生時代を振り返ってみると3年生までの間で得たものは何も無く,大事な時間を無駄に過ごしてしまったと後悔しました.そこで,学生時代の最後の1年間は,気持ちを入れ替えて勉強に集中しよう!と決め,当時一番厳しいと噂されていたディジタル画像処理の的崎研究室(当時,池口先生は的崎研究室の助手)に入りました.まだ研究を知らなかった当時の私にとっては,ディジタル画像処理というのは,聞いただけで面白そうだと思える研究テーマでしたので,真剣に取り組めるとも思っていました.

研究室に入ってみると,厳しいという噂とは全く異なり,ものすごく楽しい雰囲気に驚きました.それまで,大学はつまらないところと思っていた私にとっては衝撃でした.研究室のみんなはとても明るく,時には日が暮れるとすぐに池口先生や大学院生の先輩と酒を飲み,カラオケに行って大騒ぎしたりしました.もちろん,卒業研究は大変でしたし,大学でよく徹夜もしました.研究室に入る前は,大学に泊まり込みで研究するというのを想像出来ないかもしれないですが,思ったような結果を出すのは結構大変なことです(今の長谷川研究室の学生たちも,よく大学で徹夜しています).でも,当時は,そんなことをつらいとは全く感じませんでした.いや,むしろ毎日が楽しく,夜中に大騒ぎしながら研究したこともよくありました.

卒業研究を始めた当初は,ディジタル画像処理の研究に取り組んでいましたが,同じ研究室には,池口先生の指導のもとでカオスという何やら難しそうな学問を研究しているメンバーが何人かいました.カオスを研究していたグループは,国際学会や学外の勉強会に積極的に参加していました.研究というのは,新しいことを発明したり発見したりするものですが,カオスを使うと新しいことがいろいろ出来そうだということが,横で見ていても分かりました.画像処理がやりたくて研究室に入ったのですが,いつの間にかカオスに興味が移り,卒業研究が終わり大学院に入学する頃には,カオスを中心に研究していこうと決めていました.結局,カオスの研究を修士課程,博士課程と続け,カオスを用いた組み合わせ最適化の研究で,博士(工学)の学位を取りました.

博士課程修了後,郵政省通信総合研究所(現,情報通信研究機構)に就職し,無線通信ネットワークのグループに配属されました.カオスとはまったく異なる分野でしたが,研究への取り組み方と根性に関しては,池口先生に十分鍛えて頂いていたので,自信を持って仕事を進めることが出来ました.がむしゃらに頑張った結果,学会だけでなく,テレビや新聞にも取り上げてもらえるような成果を上げることが出来ました.でも,やっぱり,カオスを使った夢のある研究をやりたいと思い,2007年4月から東京理科大学の教員になりました.今は,情報通信研究機構と共同で,カオスやニューロコンピューティングの通信ネットワークへの応用研究も行っています.カオスは,暗号,広帯域通信,最適化,高速な情報処理などへの応用も期待されており,様々に可能性が広がるとても面白い分野です.私としては,これからも,池口先生や池口研究室のみなさんと一緒に面白い研究をやらせて頂き,新しいアイデアを社会に出していきたいと思っています.みなさんが池口研究室に配属され,お会いできるのを楽しみにしています.

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