一念通天...そんな感じの研究室

原木 大典

私が埼玉大学に入学したのは2001年の4月のことです.奈良県出身の私が埼玉大学を選んだのは,「関東で一人暮らしがしたい」ただそれだけの理由からでした.そのため,入学したことで目標が達成され,同時に次の目標がなくなりました.その結果,遊ぶ,遊ぶ,ひたすら遊ぶ.単位もギリギリ.必修の単位が多い2002年以降のカリキュラムで入学していたら(つまり皆さんと同じ),間違いなく留年していたでしょう.そういった平凡な,いや,超低空飛行で失速寸前な大学生活を送っていました.

そんな私が「池口研究室」の存在を知ったのは,卒研配属のための研究室紹介のときです.それまで,池口先生や,池口研究室のことを知らなかったのも無理がありません.なぜなら,私たちの代,つまり2001年入学の学年に対しては,なぜか池口先生が担当される講義がなかったからです.後になって,池口先生から聞いたところによると,この年は,理学部の講義等の関係で丁度受け持ちが外れた年になったそうです.

それでは,なぜ池口研究室を選んだのか?答えは意外に簡単で,研究室説明会で池口先生から説明があった色々あるキーワードの中から,「時系列解析」という言葉が目に入ってきたからです.昔から,「数値化して予測できる現象は,世の中にゴロゴロ転がってるんやろな〜」と思っていました.といっても,競馬ぐらいしかイメージしていませんでしたが.

しかし,予測の手段として統計的な手法で攻めるのではなく,今まで耳にしたことのない「非線形ダイナミクス」という手法でアプローチしていくと聞いて,ちょっとおもしろいかもと思い,ゲームの延長のような感覚で研究室を選んだのでした.そして,今までの生活を一新するために,大学院に進学してやり直す決意をしたのでした.

ただ如何せん,ダラけきった学生生活を送っていたため,いくら時系列解析に興味があるからといっても,その生活スタイルを変えることはできませんでした.一週間に数時間程度研究室に顔を出して帰る.そんな生活が何カ月か続きました.そして夏のある日,とうとう池口先生の逆鱗に触れたのでした.いい加減ちゃんとしろ,と.その理由は,このままでは,大学院の試験に落ちてしまいかねない,と先生が心配してくれたからのようです.

さすがに,その日から以前より真面目に取り組むようになりました.このお叱りのおかげで,なんとか大学院には合格しました.それから卒論に取り組み始めたのですが,「時系列解析できればな〜」と,軽々しく思ったことが甘かったことにここで初めて気付くのでした.

時系列解析を行うたためには,線形代数,微分積分,統計学などといった基本的な知識が最低限必要でした.学部の3年間でサボっていた授業の内容が,この時になって襲い掛かってくるとは思いもしませんでした….大学院の入試で勉強したはずなのに….学部三年生まででもっと勉強しておけばよかったな…そう後悔することも多々ありました.

ただ,大変な一方で,学ぶ環境としては恵まれていました.分らないことを質問すると先生を含め研究室の先輩たちがとことん真剣に,そして,たまに適当に,付き合って下さいました.やることをちゃんとやってりゃ助けてくれる,そういう雰囲気が研究室全体にあったのだと思います.そのおかげもあって,徐々に知識が蓄えられ,次第に研究が面白くなりました.そして面白いから勉強し,また知識が増えてゆく.自分にとって充実した時間だったように思います.

池口研究室で得たものは,研究室でのお勉強による知識だけではありませんでした.対外発表のチャンスが多くあります.つまり,旅行です.先ほど数えたみたところ,池口研究室に在籍した3年間で,海外3回,国内6〜7回程旅行を…いえ,研究発表をしたようです.海外の最初は,卒論の内容をまとめてハワイのホノルルでした,その次は,M1のときにベルギーのブルージュで,そして最後はM2のときにスペインのブルゴスに行きました.中でも,M1のときに発表したベルギーの学会では,終了後に1ヶ月弱お休みをいただき,当時博士後期課程に在学中の木村さんとヨーロッパ何カ国かを放浪しました.途中,チャンピオンズリーグ,ユベントスvsバイエルンも観戦することが出来ました.いやぁ,あれは楽しい思い出です.M2のスペインも楽しかったのですが,途中でイーポッドをどこかでなくしたり等のハプニングもありました.これらも,今となっては,楽しい思い出ばかりです.

そんな感じで,あっという間に3年間が経ち,「まだまだ研究したかったな」と思いながら池口研究室を後にしました.研究室を去る最後の日,池口先生はじめ,木村さん,松浦さん,…,皆さんと握手するうちに涙が溢れ出し,止まりませんでした.

現在,私は京セラ株式会社の通信機器統括事業部でPHS基地局のソフトの開発という仕事に携わっています.社会人生活を2年経過した今現在,池口研究室での生活を振り返ると,「研究者としての生活」を送ることができたんだな,という印象が残ります.仕事を行ううえでも,研究への取り組み方といった能力,つまり先進的なものを常に求めてゆく能力は当然必要です.ただし,私のように「ものづくり」の仕事を行っている場合,顧客の要求に応えることが主となります.そのため,顧客の要求に対応することに手一杯で,研究への取り組み方をトレーニングすることができません.池口研究室は,困ったときに誰かがサポートしてくれます.研究への取り組み方を十分に学ぶことができます.社会人になってからも必要となる「研究への取り組み方」を磨くために,池口研究室で「研究者としての生活」を味わってみるのはいかがでしょうか?

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