私は現在,常駐SEとしてシステム開発に携わっています. タイミングさえあれば,1ヶ月自宅勤務で良いという普通の会社ではありえない勤務体系が許されることもあり,個人的な研究を進める機会が去年はありました. 特に,研究成果を池口研究室などが主催している勉強会で発表した上,研究結果について意見を頂くこともでき,良い体験ができました. しかし,そのような日々も終わり,現在は通常のSEとしての通常業務に従事する日々です. 昼は通常業務,夜は研究という2重生活を続けていますが,現在は仕事が終電帰りであったり,休日出勤があったりで,研究に費やせる時間が少なくなっています. いくつか研究結果も出ていたため,論文にまとめていきたいのですが,いつになったら,その作業にとりかかれるか現状では全く分かりません.
なぜ現在のような,昼は仕事,夜は研究という2重生活を送るようになったのか, そのきっかけは,学部4年時に配属された池口研究室での研究生活でした. 私は2006年4月に,池口研究室に配属されました. 音声信号などからノイズを分離する研究を行いたいという目標はありましたが,実際にどのように研究を行えば良いかについては決まっていませんでした. そんな中,池口先生から「独立成分分析」という信号分離の方法があり,それに関する書籍が研究室においてあるから読んでみたらどうかとアドバイスを頂きました. 早速読んでみたところ,私の行いたい研究とピッタリ一致していたので,私は独立成分分析の研究を進めることにしました.
独立成分分析の例として,カクテルパーティ効果を思い浮かべてもらうと良いと思います. パーティ会場で複数の話者が会話をしている状況で,私たちはある特定の人の話に集中することができます. これは,私たちが,沢山の話者の音声信号が重なり合った信号から,ある特定の話者の音声信号だけ分離できるからです. どのような状況のときに,どのようなアルゴリズムを用いると信号を精度良く分離できるのかを考えるのが独立成分分析の研究です. 独立成分分析のミソを簡単に言うと,複数の話者から発せられた信号は互いに独立である,という性質を用いることにあります. このような性質があると複数の信号が重なり合っていても,ある特定の話者の音声信号を分離することができるのです. ここでは音声信号を例にとりましたが,独立成分分析は様々な分野の信号に適用することができます.
池口先生に紹介して頂いた独立成分分析の本は,研究の現状が書いてあるだけでなく,これまでの理論背景の説明も書かれていました. 理論背景を読んでみたところ,過去の研究内容について理解できない部分があり,実際にその部分に関する論文の追試を行うことにしました. 私が読んだ論文のいくつかは,どのような実験条件でシミュレーションを行ったかが書いておらず,再現性が非常に低い内容となってるものもありました. しかし,このような問題に突き当たったときも,池口先生や先輩方と議論を行い解決をしていきました. 一人で研究を行っていたら気付かなかったであろうことが非常に多く,議論は非常に重要であることを痛感しました.
これらの論文を読んだことを発端に,独立成分分析の本に引用されている様々な論文を読んでいきました. 数をこなすうちに英文論文を読むスピードも上り,12月頃になると読んだ論文の内容をすぐに追試できるようになりました. しかし,この頃から少し焦りがでてきました. というのは,論文の追試しかしておらず,自分の研究としては成果が全く出ていなかったからです.
一つの観測信号から全ての信号源信号を分離するという目標を設定していましたが,未解決問題なだけあって良いアイデアが浮びませんでした. 今思えば,この問題に拘りすぎていたのかも知れませんが,池口先生や大学院生の皆さんと色々と議論しているうちに, 従来提案されていた2種類のアルゴリズムを適応的に組み合せることにより,単独でアルゴリズムを使用するよりも高い精度で信号を分離できることを示すことが出来ました. 最終的には,この手法について卒論をまとめることになりました.また,3月には電子情報通信学会で研究発表することも出来ました. そして,この内容をより詳しくまとめて電子情報通信学会の論文誌に投稿したところ,論文としても採録されました, 卒論の内容,卒論発表会の発表内容,学会原稿,学会発表については,先生や先輩方に繰り返しチェックをして頂き,無事に発表することができました. 今考えると,池口先生や大学院生の先輩方と議論していなければ,アルゴリズムの組合せを検証することすらできなかったかもしれません. そもそも指導教員が池口先生でなければ,独立成分分析を知ることは無かったと思います.
研究以外の研究室生活はまさに社会勉強でした. 飲み会などで親睦を深めたり,冬にはスキー合宿がありました. どのようなものであったかは深くは語りません. 社会に出れば人付き合いも重要です. その訓練の場として,池口研究室は最適であることを保証します. 大学院へ進むにしても,就職するにしても得るものが必ずあります.何が得られるかは実際に体験してみてください.
最後に,近況を報告します. 冒頭でも述べたとおり,私が大学を卒業してから研究成果が出始めています. 特に観測信号が一つの場合における独立成分分析を使用したカオスの分離方法や無線通信技術MIMOへの応用など今年度は新しい研究成果,研究テーマが得られた良い年でした. それというのも研究成果の議論を池口先生が大学卒業後も快く引き受けてくださったり,池口研究室や他の研究室との間で開催される勉強会へ気軽に参加できるなど, 研究成果を出せる環境は整っているからです. 社会人としての時間の制約が残念でなりません. もし池口研究室での研究生活が楽しいと思えたならば,私が叶えることができなかった大学院への進学を実現し,好きなだけ研究することをお薦めします.
今も続く研究生活 〜社会人として,研究者として〜
佐藤 弘顕
私は現在,常駐SEとしてシステム開発に携わっています. タイミングさえあれば,1ヶ月自宅勤務で良いという普通の会社ではありえない勤務体系が許されることもあり,個人的な研究を進める機会が去年はありました. 特に,研究成果を池口研究室などが主催している勉強会で発表した上,研究結果について意見を頂くこともでき,良い体験ができました. しかし,そのような日々も終わり,現在は通常のSEとしての通常業務に従事する日々です. 昼は通常業務,夜は研究という2重生活を続けていますが,現在は仕事が終電帰りであったり,休日出勤があったりで,研究に費やせる時間が少なくなっています. いくつか研究結果も出ていたため,論文にまとめていきたいのですが,いつになったら,その作業にとりかかれるか現状では全く分かりません.
なぜ現在のような,昼は仕事,夜は研究という2重生活を送るようになったのか, そのきっかけは,学部4年時に配属された池口研究室での研究生活でした. 私は2006年4月に,池口研究室に配属されました. 音声信号などからノイズを分離する研究を行いたいという目標はありましたが,実際にどのように研究を行えば良いかについては決まっていませんでした. そんな中,池口先生から「独立成分分析」という信号分離の方法があり,それに関する書籍が研究室においてあるから読んでみたらどうかとアドバイスを頂きました. 早速読んでみたところ,私の行いたい研究とピッタリ一致していたので,私は独立成分分析の研究を進めることにしました.
独立成分分析の例として,カクテルパーティ効果を思い浮かべてもらうと良いと思います. パーティ会場で複数の話者が会話をしている状況で,私たちはある特定の人の話に集中することができます. これは,私たちが,沢山の話者の音声信号が重なり合った信号から,ある特定の話者の音声信号だけ分離できるからです. どのような状況のときに,どのようなアルゴリズムを用いると信号を精度良く分離できるのかを考えるのが独立成分分析の研究です. 独立成分分析のミソを簡単に言うと,複数の話者から発せられた信号は互いに独立である,という性質を用いることにあります. このような性質があると複数の信号が重なり合っていても,ある特定の話者の音声信号を分離することができるのです. ここでは音声信号を例にとりましたが,独立成分分析は様々な分野の信号に適用することができます.
池口先生に紹介して頂いた独立成分分析の本は,研究の現状が書いてあるだけでなく,これまでの理論背景の説明も書かれていました. 理論背景を読んでみたところ,過去の研究内容について理解できない部分があり,実際にその部分に関する論文の追試を行うことにしました. 私が読んだ論文のいくつかは,どのような実験条件でシミュレーションを行ったかが書いておらず,再現性が非常に低い内容となってるものもありました. しかし,このような問題に突き当たったときも,池口先生や先輩方と議論を行い解決をしていきました. 一人で研究を行っていたら気付かなかったであろうことが非常に多く,議論は非常に重要であることを痛感しました.
これらの論文を読んだことを発端に,独立成分分析の本に引用されている様々な論文を読んでいきました. 数をこなすうちに英文論文を読むスピードも上り,12月頃になると読んだ論文の内容をすぐに追試できるようになりました. しかし,この頃から少し焦りがでてきました. というのは,論文の追試しかしておらず,自分の研究としては成果が全く出ていなかったからです.
一つの観測信号から全ての信号源信号を分離するという目標を設定していましたが,未解決問題なだけあって良いアイデアが浮びませんでした. 今思えば,この問題に拘りすぎていたのかも知れませんが,池口先生や大学院生の皆さんと色々と議論しているうちに, 従来提案されていた2種類のアルゴリズムを適応的に組み合せることにより,単独でアルゴリズムを使用するよりも高い精度で信号を分離できることを示すことが出来ました. 最終的には,この手法について卒論をまとめることになりました.また,3月には電子情報通信学会で研究発表することも出来ました. そして,この内容をより詳しくまとめて電子情報通信学会の論文誌に投稿したところ,論文としても採録されました, 卒論の内容,卒論発表会の発表内容,学会原稿,学会発表については,先生や先輩方に繰り返しチェックをして頂き,無事に発表することができました. 今考えると,池口先生や大学院生の先輩方と議論していなければ,アルゴリズムの組合せを検証することすらできなかったかもしれません. そもそも指導教員が池口先生でなければ,独立成分分析を知ることは無かったと思います.
研究以外の研究室生活はまさに社会勉強でした. 飲み会などで親睦を深めたり,冬にはスキー合宿がありました. どのようなものであったかは深くは語りません. 社会に出れば人付き合いも重要です. その訓練の場として,池口研究室は最適であることを保証します. 大学院へ進むにしても,就職するにしても得るものが必ずあります.何が得られるかは実際に体験してみてください.
最後に,近況を報告します. 冒頭でも述べたとおり,私が大学を卒業してから研究成果が出始めています. 特に観測信号が一つの場合における独立成分分析を使用したカオスの分離方法や無線通信技術MIMOへの応用など今年度は新しい研究成果,研究テーマが得られた良い年でした. それというのも研究成果の議論を池口先生が大学卒業後も快く引き受けてくださったり,池口研究室や他の研究室との間で開催される勉強会へ気軽に参加できるなど, 研究成果を出せる環境は整っているからです. 社会人としての時間の制約が残念でなりません. もし池口研究室での研究生活が楽しいと思えたならば,私が叶えることができなかった大学院への進学を実現し,好きなだけ研究することをお薦めします.