ところで皆さん,前期の非線形システム概論や後期の生体情報工学を受講してくれましたか? 一緒に叫びましたよね?

「非線形ダイナミクス!!」

この非線形ダイナミクスこそが複雑現象の本質であると私たちは信じています. 池口研究室では,非線形ダイナミクスに関係した,理論,解析方法,アルゴリズムを用いることにより, 複雑な現象の背後に潜むカラクリを解明し,それを工学的に役立てるべく研究を進めています.

現在,池口研究室では,以下の四つの研究テーマを中心にして,研究活動を行っています.

  • [1] データ科学 (Data Science)

    私たちの身の回りを見渡せば,複雑な現象が至る所に存在します. そして,これらの複雑現象を私たちはデータとして観測することができます. これらのデータには, 複雑な現象を生み出したカラクリが隠されています. 様々な複雑現象を生み出したカラクリを明らかにする新しいアルゴリズムを一緒に開発して, 世の中に役立ちましょう.
    • 黒田佳織さん (2010年度M2) は, ネットワークを構成する素子がどのように結合しているのかを, 観測されたデータから推定する新たな手法を開発し, それを様々なシステムに適用しています. 例えば,実際のニューラルネットワークでは, ニューロンは直接的・間接的に結合していますが, これらの複雑な結合形態を, 観測されたスパイクデータだけから推定できる画期的な手法です. 特に,実際の実験データには必ずノイズが存在しますが, 実際の神経回路から観測したデータに対するより効率的な手法も開発中です. また,近年,マーク付き点過程として注目されている経済活動指標, 地震発生データ解析への応用も視野にいれています.
    • 末木貴洋君 (2010年度M1) は, カオスダイナミクスの重要な性質である 引き延ばし・折り畳み構造を解析する新しい手法を卒業研究で提案しました. 動画を用いて可視化する解析法ですが, 斬新な描画法をアイディアを取り入れることにより, 様々なカオスアトラクタに対する解析ができるようになりました. 現在は提案法に基づいた,引き延ばし・折り畳み構造の定量化に取り組んでいます.
    • 成澤佳介君 (2008年度修士課程修了) は, ウェーブレット変換を用いて, 雑音が重畳したカオス的時系列信号からの極値情報を正しく抽出する手法を開発しました. 極値が正しく抽出できたことで, 雑音が加ったカオス的な時系列信号の長期予測を可能にしています.
  • [2] 神経科学 (Neuro Science)

    私たちの脳は,非線形素子であるニューロンが, 複雑に結びついて出来ています. これらのニューロンは, どのように結びついて情報を処理しているのでしょう? どのような情報処理の原理が用いられているのでしょう? 脳で用いられている情報処理原理を明らかにし, 脳型計算を実現することで, 従来とは異なる全く新しい計算原理を一緒に創り出しましょう.
    • 加藤秀行君 (2010年度D3) は, 実際に脳において観測されているスパイクタイミングに依存した学習則に着目し, この学習則が, どのようなニューラルネットワーク構造を導くのか, どのような応答を生み出すのかについて取り組んでいます. その結果, スモールワールドネットワークなどの複雑ネットワーク構造が出現することを明らかにしました.
    • 大野修平君 (2010年度M1) は, スパイクタイミングに依存した可塑性をモデル化したSTDP学習則をニューラルネットワークに適用することにより, 実際の脳で観測されている神経雪崩現象の再現に成功しました. また,神経雪崩現象を示すネットワークがフィードフォーワード性を有することも明らかにしています. 実際の大脳皮質において観測されていた神経雪崩現象の発生メカニズムが, 大野君の研究成果により解明されそうです.
    • 鈴木麻衣さん (2009年度卒業)は,聴覚系を想定したニューロンの数理モデルに対し, 日本語母音データを入力として与えた場合の応答を解析しました. その際,観測されたスパイク列からニューロンへの入力信号を推定する新たな手法を提案し, 様々な入力信号に対して有効であることも示しました. また,提案手法を用いることで,聴覚系における確率共鳴現象の再現に成功しています.
  • [3] カオス最適化 (Chaotic Optimization)

    私たちは,常に最適化を考えながら行動しています. どうしたらコストを抑え,利益を上げることができるでしょう? どうやったら多くの荷物を短い時間で配送することができるでしょう? どうしたら効率のよい人員シフトを作ることができるでしょう? これらは,組合せ最適化問題といわれる問題になりますが, 最適解を見つけることは容易ではないと考えられています. このような組合せ最適化問題を高速に,そして, 効率的に解くことができるカオスを使った新しいアルゴリズムを一緒に開発しましょう.
    • 松浦隆文君 (2009年度博士課程修了予定) は, 皆さんが情報工学総合演習の課題Bで取り組んだ巡回セールスマン問題に対する 新しい解法を開発しました. 課題Bでは, 2-opt 法とよばれる最も単純な発見的手法を用いましたが, 松浦君は, これにOr-opt 法という方法も適応的に組合せ, それをカオスで制御する手法を完成させています.
    • 本橋瞬君 (2009年度修士課程修了予定) は, 巡回セールスマン問題を解くための手法として有名な, リン・カーニハンのアルゴリズムをカオスダイナミクスで制御する新しいアルゴリズムを卒業研究で提案しました. 修士論文では,非常に大きいサイズの巡回セールスマン問題(100万都市)にも適用できる, カオスを用いたチャンピオンアルゴリズムを開発しました.
    • 鈴木貴行君 (2010年度M2) は, 二次割当問題に対する新しいカオスサーチ法を開発しました. 従来,ノイズはカオスサーチ法の性能を劣化させる要因になると考えられていましたが, 相互結合型カオスニューラルネットワークに微少量のノイズを印加することで, 性能が向上することを明らかにしました.
  • [4] ネットワーク科学 (Network Science)

  • 私たちは,ネットワーク世界に生きています. 脳,ニューラルネットワーク,インターネット,WWW,人間関係, 交通,病気の感染など, 様々な事柄が複雑に絡み合うこの世のカラクリを,今, 世界で一番注目されている複雑ネットワーク理論を用いて解析し, 新しいネットワークの構成原理を発見しましょう.
    • 島田裕君 (2010年度D2) は, 卒業研究で提案した複雑ネットワーク理論を用いたカオスアトラクタの新しい解析法の研究を, 更に押し進めています. この研究は,非線形力学系理論と複雑ネットワーク理論を結ぶ新しい架け橋であり, 従来では考えられていなかった新しい世界観をもたらすものとして,世界的にも注目されています.
    • 原口雄太君 (2010年度M2) は, 島田君の導入した枠組みにおいて, 複雑ネットワークを非線形時系列解析の手法を用いて定量化しています. この研究は,複雑ネットワークをこれまでとは異なる観点から定量化するものであり, 全く新しい知見が発見されると期待されています.
池口研究室では,上記の四テーマを中心に研究活動を行っていますが, これらのテーマにまたがる内容を研究テーマを選ぶことができます. 実際,池口研究室では,多様な内容の研究が毎年遂行されています.
  • 河村裕介君 (2010年度M2) は,地理的複雑ネットワーク理論を用いて, 巡回セールスマン問題の解空間を削減する手法を提案しています. この研究は,複雑ネットワーク理論を組合せ最適化問題に応用する新たな試みであり, 従来の解空間削減法を凌駕する性能が期待されています. 解空間の削減のみならず,複雑ネットワーク理論を用いた, 巡回路の構築法・改善法への発展も期待されています.

このように池口研究室では,様々な研究テーマを選ぶことが可能です. その大きな理由が,非線形現象の遍在性にあります. 私たちの普段の生活には,非線形性とそれが生み出す複雑現象が満ちあふれているからです.

以下は,池口研究室に関連した研究課題例です. これらが全てという訳では有りませんが,参考にしてください. また,過去に池口研究室所属の学生の皆さんが発表した, 卒業論文,修士論文,博士論文の題目を次ページに示します. 池口研究室では,どのような研究が行われてきたか参考にしてください.

食器洗い乾燥機の非線形解析, 交通流量の非線形予測, 雷発生予測システムの構築, 地震発生機構の解明と予測システムの構築, 局所天候予測(降雨予測), 音声信号の非線形解析と音声合成, 神経細胞からの同期発火現象, 位相一貫性 (発火タイミングの一貫性) 現象の解明, 関東近郊鉄道の複雑ネットワーク理論的解析, 感染障害患者数の解析と流行予測, カオス的振動が人体に与える影響の解析, カオスマッサージ機, カオス歯ブラシ, カオス剃刀, カオス携帯電話, カオスを用いたパターン認識, カオス暗号,カオス通信,カオス乱数, カオス探索法と計算理論,量子カオスとその応用,等
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