ところで皆さん, 前期の非線形システム概論や後期の生体情報工学を受講しましたか? 一緒に叫びましたよね?

「非線形ダイナミクス!!」

私たちは, この非線形ダイナミクスこそが複雑現象の本質にあると信じています. 「非線形ダイナミクス」に関係した, 様々な理論,方法,アルゴリズムを用いることにより 複雑な現象のカラクリを解明し, それを工学的に役立てるべく研究を進めています.

現在,池口研究室では, 以下の四つの研究テーマを中心にして, 幅広い研究活動を行っています.

  • [1] 非線形モデリングとその応用

    私たちの身の回りを見渡せば, 非線形なシステムが生み出す複雑な現象が 至る所に存在します. 予測が困難と考えられている様々な非線形な複雑現象を 上手く予測する新しいアルゴリズムを一緒に開発して, 世の中に役立ちましょう.
    • 2007年度は, 藪田直樹君 (M2) が修士論文で, カオス的な時系列信号の 長期予測を実現する新しい手法を開発しました. カオスは長期的に予測できないという常識を覆す, 全く斬新なアイディアです.
    • 古屋野仁紀君 (B4) は, 神経回路などから多チャネルで同時計測される マルチスパイクと呼ばれる時系列信号をモデル化する際に, どのように状態空間を構成したらよいか, という枠組みを構築しています.
  • [2] 脳型計算原理の解明,ニューロコンピューティング

    私たちの脳は,非線形素子であるニューロンが, 複雑に結びつき合って出来ています. これらのニューロンは, どのように結びついて情報を処理しているのでしょう? どのような情報処理の原理を用いられているのでしょう? 脳で用いられている情報処理原理を明らかにし, 脳型計算機の実現をすることで, 従来とは異なる全く新しい計算原理を一緒に創りましょう.
    • 2007年度は, 芦澤徹君 (M2) が, 修士論文で, ニューラルネットワークの構造を, ニューロンから観測されたスパイク信号から 推定する手法を開発しました. スパイク信号間の類似性を測る指標を拡張し, それに対して, 偏相関解析と呼ばれる手法を用いることで, 従来では実現出来なかった全く新しい手法を提案しています.
    • 加藤秀行君 (M1) は, 実際に脳において観測されている スパイクタイミングに依存した学習則に着目し, この学習則が, どのようなニューラルネットワーク構造を導くのかについて取り組み, 得られた結果を修士論文として纏めています. その結果, スモールワールドネットワーク等の複雑ネットワークが 出現することを明らかにしました.
  • [3] 組み合わせ最適化問題に対するカオス探索法の開発

    私たちは,常に最適化を考えながら行動しています. 如何にしたらコストを抑え,利益を上げることができるでしょう? どうやったら短い距離で, 多くの荷物を短い時間で配送することができるでしょう? どうしたら効率のよい人員シフトを作ることができるでしょう? これらは,組み合わせ最適化問題と言われる問題になりますが, 最適解を見つけることは容易ではないと考えられています. このような組み合わせ最適化問題を高速に,そして, 効率的に解くことが出来るカオスを使った新しいアルゴリズムを 一緒に開発しましょう.
    • 2007年度は, 木村貴幸君 (D3) が, 動的な組み合せ最適化問題の一例である パケットルーティング問題に対する, カオスルーティング法を開発し, それが効率的であることを示しました. 特に,ルータにおける待ち時間を考慮した戦略においても, 優れた結果がえら得ること等を示しており, これらの結果は,パケットルーティング問題のみならず, 交通渋滞の解消などへの応用が期待されています. 木村君は, これらの内容を博士論文として纏めました.
    • 松浦隆文君 (D1) は, 皆さんが課題B1で取り組んだ巡回セールスマン問題に対する 新しい解法を開発しました. 課題B1では, 2-opt 法とよばれる最も単純な発見的手法を用いましたが, 松浦君は, これにOr-opt 法という方法も適応的に組み合わせ, それをカオスで制御する手法を完成させています.
    • 星野聖君 (M2) は, 巡回セールスマン問題を実務的に拡張したと考えられる 配送計画問題に取り組み, 新しい手法を開発し, 世界的にもトップレベルの結果を得ています. 星野君は, これらの結果を修士論文として纏めています.
    • 本橋瞬君 (B4) は, 巡回セールスマン問題を解くための手法として有名な, リン・カーニハンアルゴリズムを基本として, その実行をカオスダイナミクスで駆動する手法を提案しました.
  • [4] 複雑ネットワーク理論とその応用

  • 私たちは, ネットワーク世界に生きています. 脳,神経回路,インターネット,WWW,人間関係, 交通,病気の感染など, 様々な事柄が複雑に絡み合うこの世のカラクリを,今, 世界で一番注目されている複雑ネットワーク理論を用いて解析し, 新しいネットワークの構成原理を一緒に開発しましょう. これからのネットワーク社会の未来を一緒に開拓しましょう.
    • 2007年度は, 島田裕君 (B4) が卒業研究で, 複雑ネットワーク理論を用いた, カオスアトラクタの新しい解析法を提案しました. また,同時に, 非線形力学系理論で用いられる手法を用いて, 複雑ネットワークを定量化する試みにも挑戦し, 理論構築しています. これらの研究は, 非線形力学系理論と複雑ネットワーク理論を結ぶ 新しい架け橋であり, 従来では考えられていなかった 新しい世界観をもたらすものとして, 世界的にも注目されています.
池口研究室では,上記の内容を中心に研究活動を行っていますが, これらに直接的に関係せずとも, 研究テーマとして選ぶことができます. 実際,池口研究室では,多様な内容の研究が毎年遂行されています. 2007年度は,以下のような広がりがありました.
  • 成澤佳介君 (M1) は, 画像信号の高能率符号化, 特に可逆圧縮の方法に関する研究を行っています. 成澤君は, 従来用いられてきた DPCM と呼ばれる手法を 拡張し,非線形予測法を導入することで, 画像信号の予測精度を向上させ, 従来の非線形予測を用いた手法と比べても 優位な結果となることを示しています.
  • 衣川貴仁君 (B4) は, マルチカーエレベータと呼ばれる特殊なエレベータを どのように制御するかという問題を卒論のテーマとして選択しました. 衣川君は, 従来の手法の一つであるゾーン割当法を改良し, この手法の性能を十分に凌駕する全く新しい制御法を提案しています.

このように池口研究室では, 様々な研究テーマを選ぶことが可能です. その大きな理由が,非線形現象の遍在性にあります. 私たちの普段の生活には, 非線形性が,そしてそれが生み出す複雑現象が満ちあふれているからです.

以下は,池口研究室に関連した研究課題例です.勿論, これらが全てという訳では有りませんが,参考にしてください. また,過去に池口研究室所属の学生の皆さんが発表した, 卒業論文,修士論文,博士論文の題目を次ページに示します. 池口研究室では, どのような研究が行われてきたか, こちらも参考にしてください.

食器洗い乾燥機の非線形解析, 交通流量の非線形予測, 雷発生予測システムの構築, 地震発生機構の解明と予測システムの構築, 局所天候予測(降雨予測), 音声信号の非線形解析と音声合成, 神経細胞からの同期発火現象, 位相一貫性 (発火タイミングの一貫性) 現象の解明, 関東近郊鉄道の複雑ネットワーク理論的解析, 感染障害患者数の解析と流行予測, カオス的振動が人体に与える影響の解析, カオスマッサージ機, カオス歯ブラシ, カオス剃刀, カオス携帯電話, カオスを用いたパターン認識, カオス暗号,カオス通信,カオス乱数, カオス探索法と計算理論,量子カオスとその応用, スーパーチューリングマシンと コンプレックス・カオス力学系 (一般化シフト写像),等
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