人として成長できる研究室

河村 裕介

河村 裕介

 学部3年生の皆さん,こんにちは.池口研究室博士前期課程2年の河村裕介です. 皆さんの受けた講義のTAは担当していないので,ほとんどの人は初めましてになりますね.

 私は現在,情報工学総合演習課題Bで皆さんが取り組んだ巡回セールスマン問題(TSP)を研究対象としています. きっかけは2004年の夏,私が高校3年生の時に参加したオープンキャンパスでの模擬講義まで遡ります. このとき,私は初めて池口先生にお会いし,池口先生の模擬講義を拝聴しました. その模擬講義の内容は,まさに今,私が研究対象としているTSPでした. この時の模擬講義で用いられたのは,アメリカの48都市問題でした. 模擬講義では実際にこの問題を解いてみる時間があり,私もチャレンジしましたが,結果は惨敗でした……. TSPはそれだけ難しい問題ということです.

 皆さんは情報工学総合演習課題Bで,巡回路を作り,巡回路長が短くなるように辺を繋ぎ替えるプログラムを作ったと思います. この時,皆さんの中には,何も全ての辺を繋ぎ替えなくても,近くの都市へ繋ぐ辺のみに限定すれば,もっと速く計算できるのに,と考えた方がいるかもしれません. 私は,繋ぎ替える辺の候補をどのように減らすかを研究しています. 具体的には,各辺の最適巡回路への「近さ」を表す指標で最適巡回路に「近い」順に,繋ぎ替える辺の候補を選ぶ研究を行っています.

 ここで,最適巡回路がわからないのにどうやってその「近さ」を求めるのかと疑問に思うことでしょう. 実際は,最適巡回路の代わりに最小全域木に辺を一本だけ加えたグラフ(これを最小1-treeといいます)を考えます. 最小1-treeは簡単に計算することができる上に,最適巡回路と多くの辺が共通するため,近似的に最適巡回路への「近さ」を表すことができます.

 さらに,もし最小1-treeを上手く最適巡回路に近づけることができれば,この指標はさらに正確に最適巡回路への「近さ」を表すことができます. 従来は,巡回路中の各都市にはちょうど2本ずつ辺が張られている特徴に基づいて最小1-treeを変形させます. 具体的には,3本以上辺が張られている都市と1本しか辺が張られていない都市にペナルティを与え,最小1-treeを徐々に最適巡回路に近づけます. それに対し,私は各都市に課すペナルティをもっと上手く求めることができないかという視点から研究を行いました.

 これから研究室に配属される皆さんの中には,大学院に進学を希望する方も就職活動中の方もいると思います. 皆さんの中には研究室は研究だけと思っている方がいるかもしれません. しかし,答えは``No''です. 私は小さい頃より鉄道に興味があり,卒業研究では,鉄道網のように,物理的に遠く離れた頂点をつなぐ辺や辺同士の交差が少ないという特徴をもつネットワーク理論に取り組んだほどでした. そんな私に池口先生は,財団法人鉄道総合技術研究所を就職先としてご紹介くださいました. 池口先生の熱心な応援のおかげで内定を頂き,4月より研究開発職に就きます. このように自分の夢が実現できたのも,池口研究室での研究生活における様々な経験があったからだと思います. そこで,研究室生活が就職活動,あるいは社会に出てから必要であろう能力と直結していることを,学生の観点から,私が池口研究室で3年間学んだ経験を通して紹介しようと思います.

 第一に,社会で必要なマナーを自然と身に付けることです. 具体的には,報連相(報告・連絡・相談),メモをとる習慣,メールの書き方などが挙げられます. 特に私の場合,「情報と職業」のTAを担当しましたが,そのおかげで講師の方々(会社の経営者)の連絡することができ,経験値を高める事ができました. これらの経験は就職活動においてアポイントメントを取る,お礼状を書くなどの際に役に立ちました.

 第二に,研究の議論,発表をする場に恵まれていることが挙げられます. 学会発表,卒業論文および修士論文の中間・最終発表では短時間で自分の研究成果を話すことが要求されます. このとき,自分が何を問題としているのか,それを解決するためにどんなアイデアを用いたか,その結果何が得られたかを簡潔に述べられるかが重要となります. 私が研究室に配属された当初は自分の考えを簡潔に述べることが中々できず,初めてミーティングで報告した際にはどう答えていいのかわからず固まってしまうほどでした. 今でも研究室では固まるキャラのままですが…….

 しかし,徐々に慣れ,発表も無事こなすことができました. また,今年度は私と同じ分野の研究に取り組む後輩がいるため,必然的に議論やアドバイスする機会が多くなりました. ミーティング時の資料をはじめ卒業論文,研究発表のスライドの添削などを行い,議論するチャンスを与えてもらいました. これらは基本的には自分が池口先生にご指摘頂いた経験を元に内容を直しますが, 逆に人の文章やスライドを修正する過程で自分が直すべき点や新しいアイデアが見えてくることがあり,自分へのフィードバックにもなりました. これらの経験は,小論文や履歴書作成,グループディスカッション,面接等で研究内容を説明する際に活かされたと思います.

 これらの他にも,自分達の研究以外にも面白いテーマを見つけると,すぐに真剣に議論し色々試す行動力があります. 私が池口研究室にいる間にも,各自の研究テーマとは別に,レゴマインドストームで作製した二重振り子,メトロノームやペットボトル, ろうそくを用いた同期実験,電子回路でカオスの音を聴く実験なども取り組んでいます. これらの実験風景は動画としてYouTubeで発信し(「池口研究室」で検索すれば見ることができます), むつめ祭期間中に開催される工学部オープンラボでも紹介しています. さらに,詳細は秘密ですが,毎年卒業式の後に開催される情報システム工学科の謝恩会をおおいに盛り上げる企画も準備中です. このように,何事にも真剣に取り組む姿勢こそが,各自の研究においてちゃんと成果を出す原動力ではないかと思います.

 まだやりたいことが具体的に決まっていない方も池口研究室をおすすめします. 池口研究室には,自分の興味のある分野を研究テーマとして取り組み,その過程で成長できる熱意と環境があります.

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